―若楓― 「殿」 早朝だというのに、宮の前で何やら考え事をしているの姿を見て、友雅は歩み寄った。 「友雅殿」 ハッとするようにこちらを向き、すぐに微笑んだ。 「おはようございます」 「こんな朝早くにいかがなされた まさか想う方でもいるのかな?」 「はは、ご冗談を」 苦笑いしてみせるに友雅は微笑み返す。 友雅はが女である事に感づいていた。 定かではないが、声音や顔つき―そして何より友雅の長年の女に対する勘のようなもので 会ったときから女では無いかと疑っていたのだ。 立ち振る舞いは男宛(さなが)らだが、友雅の目は誤魔化せない。 いつか女である事を確かめてみたいと密かに思っていた。 「昨日 泰明が張った結界が破れているのです」 「結界が?鬼の仕業かな」 「どうでしょう・・・そんな気は感じないのですが―」 「が?」 「寧ろ何も感じない。破られた形跡はあるのに破ったものの気が感じられぬのです」 「ほう 興味深い」 「泰明に報告したいのですが・・・どこにいるのか分からなくて まぁいつものことですが」 また困ったように苦笑いする。 「それで、少将様は宮仕えですか?」 「いや、朝の散歩だよ 朝からいいことがあって今機嫌がとてもいいんだ」 「朝からいい事ですか」 「そう・・・」 友雅はそう言ってのすぐ傍まで近づく。 並んでみて、改めて思った。 ―女なのではないか、と。 暁の日の光に輝くやわらかそうな髪から微かに匂う清潔な香り 女のように滑らかで白い美しい肌 友雅はいきなり、の体を抱きしめた。 「と、友雅どの?」 男にしては小柄で華奢な体は幾ら直衣(なおし)を着重ねようとも 抱きしめる友雅にはまざまざと感じ取れる。 「あの・・・ご気分でも優れぬのですか」 最初は驚いた風であったが、すぐに平静を取り戻した。 いきなり男に抱きつかれたにも拘らず、 思わず感情を高ぶらせたり、焦った様子を見せようとしないあたり流石だと思った。 「友雅殿?」 このまま、あなたは本当は女なのだろうと尋ねてみたくなった友雅だったが 気丈にも動揺を見せないに感服し、その衝動は思いとどまった。 「すまないね ちょっとまだ寝ぼけているのかな」 「心配致しましたよ」 体を離した友雅は、そっとの頬に手をやる。 (ふ、やはり・・・ 肌だけは騙せない 男でこれほど美しい肌を持ったものがいたら、女性は泣くな ) とても男のものとは思えぬほどやわらかい白い肌。 友雅は嬉しそうに笑った。 「黒くくすんでいたから、拭き取ってあげたよ」 真っ直ぐな眼差しを向けるに友雅は微笑んだ。 「ありがとうございます」 友雅が触れた頬を自分でもなぞってみる。 「それじゃ、私はこれで失礼するよ」 「はい、道中お気をつけて」 サッと扇を広げる友雅。 はたと立ち止まっての方を振り返る。 もそれに気づき、友雅を見やる。 「そうそう・・・先程のいい事というのはね、あなたに会えた事だよ」 ( この言葉― あなたはどう受け止めるかな? ) あなたはまるで 黄葉した若楓のように鮮烈で美しい もし、あなたが女であるならば この手であなたを紅く染めたい 紅葉する楓のように 情熱的な恋をするあなたはさぞかし魅力的だろうから― 後 書 き 吉田兼好 『徒然草』 「卯月ばかりの若楓 すべてよろづの花紅葉にもまさりて めでたきものなり」 黄葉した若楓は紅葉した花より見事だ をそんな若楓に例えた友雅は、あえて、紅葉したあなたが見たいと言っています。 今ももうすでに美しいが、違ったあなたを見たいよ という事です。(説明長っ