は円卓の間に一人佇んでいた。 白いコートを身に纏い、前のボタンもしっかり止めていた。 誰も居ない円卓に手を置き、磨き上げられた机に映る己の姿を見つめた。 (私は、私だ・・・何も変わらない―) カツッカツという靴の音を響かせそっとその場を離れる。 白いフードを被ろうとしたその瞬間― 「―」 「・・・教皇様」 慌ててフードを被るのをやめる 優しい声を掛けて来たのは教皇だった。 「戻ってきてくれたのだね」 「・・・」 小さく頷き、反らしていた目を教皇に向ける。 「どうぞご無礼をお許し下さい これからはずっと、教皇様のお傍に」 恭しく膝をついてお辞儀をした。 「よい、何があったかは知らぬが 今そなたがここに居るのであればそれで良い」 教皇はにっこりと微笑んで跪くの頭をポンポンと撫でた。 「はい」 顔を上げて、教皇を見上げるも微かに笑った。 「ところで―」 教皇はに背を向け、腰で両手を組みながら話し始めた。 「早速で悪いのだが・・・そなたにはグロリアを監視してもらう。」 「・・・グロリア」 「そなたが居らぬ間に教団に入ってきた女じゃ」 教皇はくるりとの方を向いた。 「閻魔刀を持ってな」 「!」 の表情は固くなる。 「今は我々に協力しているが・・・おそらくスパーダの息子、ダンテと関わりがあるのじゃろう」 「ダンテ・・・」 「グロリアはフォルトゥナ城に向かわせておる。本日中に追うように」 「はい」 「くれぐれも―」 教皇の顔は綻ぶ 「気をつけてゆけ」 は静かに頭を下げる。 「畏まりました」 † † † は凍える寒さの雪山を進んだ。 白いコートは雪と見境がつかず、まして吹雪があっては全く何処にいるのかも分からない。 吹雪の山を越えると、城の見える丘に出た。 月が輝いていた。 辺りを見渡すと、既に人が通った形跡がある。 まだ新しい足跡。 は足跡に自分の足を重ねる。 (大きい) どうやら大きさや形から、グロリアの物ではないと判断できる。 (男か) は改めて城の方に向き直り、桟橋を見やる。 (誰か居る) そこには赤茶けたコートを着た男が城から出てくるところだった。 咄嗟に崖を上って身を隠した。 暫くすると先程の男がやって来た。 ネロだった。 はネロを知っていた。 クレドの同僚であるは昔からキリエと親交が深く、よくネロの話を二人から聞いていたのだ。 また、ネロは教団の中でも目立つ存在であった為、ほとんどの者がネロの事を知っていたのである。 サク サクと雪の上をゆっくり歩きながら、が来た道を戻っていった。 姿が見えなくなると、はトンッと崖から下に下りた。 「Hey you?」 突然、頭上から声がした。 バッと身を構えて銃に手を伸ばし、見上げる。 「お前あの時の白い奴か?」 ネロは同じく崖を飛び降り、の前に着地した。 「お前、前に俺の事助けようとした奴だろ?」 「・・・あの時は間に合ったか」 「ああ、お蔭様でね」 ネロはフードを被ったのままのを見て、右腕を隠した。 「どうやら教団の人間らしいな・・・なんでこんなところに?」 「グロリアという女性を追っている。」 「グロリア?あぁ、大分前に遇ったぜ?」 「今は、何処へ?」 「さぁな。別件だと言って帰って行った」 「・・・そう」 は手がかりを失って落胆した。 フォルトゥナ城に向かったという情報しかなかったからだ。 「ところでアンタ、聞きたい事がある」 はうつむきがちの顔を少し上げた。 「なんで俺の名前を知っている あの時、俺の名前を呼んだだろ?」 「・・・私はクレドの同僚だ、妹のキリエも知っている」 「そうなのか!?・・・参ったな、二人から話は聞いてるってことか」 は相槌を二回打った。 「全く・・・どうしてこう俺は知名度が高いんだか・・・」 「・・・私はグロリアを追う。」 「あ!待てよ」 立ち去ろうとするを慌てて止めるネロ 「アンタ、名前は?」 「・・・」 「 ! あ、おい!!」 名前を聞いて、歩き続けるを追いかける 「話聞け!俺、クレドから伝言だ。 “俺の元に、フォルトゥーナに戻って来い”だとよ」 「・・・」 は歩みを止め、顔を歪めて俯いた。 フードを被っていて、ネロにその表情は見えない。 「どうした」 黙りこくるを見てネロは顔を覗き込んだ。 「大事無い、覗くな」 慌てて顔を背ける ネロは再び腕を隠した。 「ネロ、貴方は何をしているの?」 「俺も人を追っていてね。紅いコートの男だ」 「名前は?」 「知らねーな。」 は考えた。 「私も貴方と同行して良いか?」 「え?」 ネロは少し後ずさった。 一緒にいられては右腕を使って戦えないからだ。 「それは困る―」 「言っておくが、貴方の右腕については私も知っている」 ネロは目を見開いた。 そして、反射的にの胸倉を取った。 勢いでフードが外れる。 「っどうして― クレドに聞いたのかッ」 セリシアは突然の事に少し驚いた顔をしたがすぐに素面に戻した。 「そうだ」 の突き刺すような眼差しにネロは顔を背け、手を放した。 に背を向け、チッと舌打ちをした。 「・・・隠す必要はない、と言いたかった・・・申し訳ない」 も俯いて、再びフードを被った。 「好きにしろ」 ネロは脱力したように呟き、歩き始めた。 「ただ、」 ついてくるを振り向き、右手で指差した。 「お前もフードを被るな」 ふん、と息を吐いて気だるそうに再び歩き始める。 はフードをとり、無言のまま歩き出した。