椿が落ちるその時まで





しんと静まった年の朝。

誰かに起こされるわけでもなくルキアはすっと目を開いた。

窓に目をやると、綺麗な白い朝日が障子を通して部屋中をやんわりと照らしていた。


「寒いな」

布団から出てきたルキアは身を突く寒さに体を震わせながら障子を開けた。

「雪か」

庭一面に積もる雪を見て、いつも以上に明るい朝に納得した。

朝日を浴びて、雪は無数の光を放っている。

眩しさに目を細めながら、ルキアは小さく欠伸をした。








身支度を済まし、まずは兄・白哉の元へ新年の挨拶に向かう。


渡り廊下の床板が寒さに身を強張らせているのだろうか。

ルキアが足を置くたびに、みしっという凍ったような音を出す。

女中の者が通ればなおの事で、足袋をする音と共に冷たい廊下に静かに溶け込む。


ルキアは新しい年が始まったのか、と心の中で呟いた。





「失礼致します。ルキアにございます。」

兄の部屋の前の廊下には誰もおらず、その声は微かにこだまする。

再びしんとした静かさを取り戻したその空間に、白哉の声は返って来ない。

「兄様、ルキアにございます。」

先程より少し大きな声でもう一度声を掛けてみる。

しかし白哉の返事はない。


「兄様・・・?」

まだ寝ているはずはないだろうにと思いながらそっと襖を開け、中を覗く。

ルキアの部屋と同様、白い清らかな光で照らされている。

寒いにも関わらず、白い夜着から足を晒して障子に寄りかかりながら眩しい朝日を眺めている。

雪の色によく似た短髪は紛れもなく兄・白哉で無いことを示していた。



「市丸、ギン・・・!?」

ルキアがそう呟くと、その男はごろりと横になってルキアの方を向いた。


「明けましておめでとう、ルキアちゃん」

いつもどおり、にたりと口角を鋭く上げた笑みを浮かべている。

「今年もよろしゅうに」

「なぜ貴様がここにっ、兄様は!?」

市丸は幼子のように口を尖らせ、眉根を上げて悲しそうな顔をする。

「折角のお年明けなのに“貴様”なんて冷たいわルキアちゃん」

ルキアは少し戸惑いながらも丁寧に正座しなおすと、手をついて深々とお辞儀した。

「明けましておめでとうございます 市丸隊長。」

市丸は嬉しそうに顔を綻ばす。

「さすがルキアちゃん お辞儀の姿も凛々しいなァ」

「それで、どういったご用件で新年早々兄様の下に?」

淡々とした声音で話すルキアに市丸はハァと大きな溜息をついた。


「年は変われど、相変わらずやなァ」

「ありがとうございます」

「褒めてるつもりはないんやけど・・・ま、ええわ」

市丸はすっくと起き上がると白哉の布団の上で胡坐を掻いた。


「今日一日、ボクがアンタの兄様や」

ルキアは眉を寄せる。


「そんな目でボクを見たらあかん、あかん」

「・・・仰る意味が分かりかねます」

「そんな目で兄様を見たりせえへんやろ?いつもどおりに 白哉はんを見るように見てや」

「出来ません。兄様はどこにおられるのです?」

「目の前におるやん」

「違います、貴方は三番隊隊長・市丸ギン殿です 兄様ではない」

「はて 何の事やら?ボクは六番隊隊長でルキアゆう可愛い義妹がおるねん」

「市丸隊長・・・」

「ふ〜 しかし寒いなァ!ルキア、こっちおいで ボクの手ぇ冷たいねん」

「吉良殿を呼びますぞ・・・」

「ひゃぁ 足も冷たい!!この夜着じゃ寒いわ〜 ルキア!はよ体温めてやァ」

「いい加減にし・・・!!」


苛立ちを抑えきれず、大きな声で怒鳴ろうとするルキアだが

その瞬間に市丸は素早くルキアの口を押さえつけ、片手でルキアの体をひょいと抱えた。


「兄様にそんな口聞いてええと思うとるん?」

そう呟く市丸の表情は一見穏やかでも、その身から放たれる霊圧は凄まじい。

ルキアは身を強張らせて恐怖に慄くも、呑み込まれまいと必死に市丸を睨みつけた。


「あかん子や さっきも言うたのにぃ、そんな目したらあかんて」

ルキアの頭をぐいと引き寄せ、耳元で囁いた。

「あんまりオイタが過ぎると 仕置きせななァ?」

ゾクゾクと背筋を這う鳥肌が体全体に伝染する。

ごくりと唾を呑み込むと、市丸は満足そうな顔をしてルキアを下ろした。



「新年早々仕置きはイヤやろ?」

市丸は大きく伸びをしながら欠伸をすると、開け放たれた障子を閉めた。

朝日は僅かに遮られ、部屋は少し薄暗くなった。


「ボク着替えるからそっち向いててやァ♪」

恥ずかしそうに手を振る市丸にルキアは、失礼します と一言残すと早々に部屋を出ていった。








続