ルキアは六番隊隊舎にいた。

しかし、兄は居無かった。

あの広い朽木家をくまなく探したが兄・白哉の姿は見えず、もしやと思って訪れたが
その思いつきも無駄に終わった。


「どこに行かれたのだろう・・・」


わざわざ隊舎にまで来たルキアだったが、実は白哉に会わなくてはならない理由は特には無かった。

わざわざ家を出てまで白哉を探すには別の理由があったのだ―・・・。



「まだ・・・兄様の部屋にいるのだろうか」

家へと続く道を気だるそうに見つめた。


(あまり・・・あの男の傍にはいたくないのだが・・・)


これが、本当の理由であった。







・ ・ ・







「吉良殿!」

「朽木さん?明けましておめでとうございます」


三番隊隊舎の鍵を持った吉良イヅルと通りすがった。


「元旦だというのに仕事なのですか?」

死白装を着込んで、副官をつけているイヅルに問うた。

「いえ、今終わったところなんです。実は―また隊長がどこかに出かけてしまいまして・・・

 まぁいつもの事なので慣れっこですが。」

ルキアはどきりとした。

「吉良殿が市丸隊長の仕事を?」

「大した仕事では無いんです。・・・言うなれば“隊長の部屋の掃除”です」


ははっ、と苦笑いしてみせる吉良の目の下には微かにクマが出来ている。


「ご苦労様です。新年早々上官の部屋の掃除とは・・・お忙しいことですね。

 お体にお気をつけ下さいね。」

「お気遣いありがとうございます。・・・しかし、朽木隊長もお忙しい方ですね。

 私とは違って、任務があるとか。」

「兄様が?」

「あれ?違います?

 いや、先日市丸隊長がそう呟いていたのを耳にしたので・・・」

「そう、なのですか・・・」

「あ、でも、隊長の言うことだからあまり気にしない方が・・・きっと嘘ですよ

 朽木隊長は家にいらっしゃるんでしょう?」

「・・・・」

「どうかされたんですか?」

無言のまま考え事をしているルキアの顔を吉良は覗き込む。

「あ、いや何でも無いんです。ではそろそろ家に戻りませんと。」

「はい、僕も失礼します。」






・ ・ ・







「市丸隊長!」

白哉の部屋の襖を大きく開け放つ。

やはりそこには兄ではなく、市丸ギンの姿があった。


「どないしたん?そないに息切らして」

「兄様はどこなのです、今吉良殿に聞きました。市丸隊長は兄様に任務がある事を知っていると」

「知ってはるよ。でもどこかは知ら〜ん」

「なぜ市丸隊長が兄様の事を知っているのですか、朽木家の者は誰も知らないのに」

「・・・何でやろねェ」


ニィ と口角を上げて笑う市丸。


ルキアはこの白哉の任務は市丸が関係していると思った。





「ところでルキアちゃん、そろそろいい時間やし 初詣行こか♪」

突然の言葉にルキアは口を開けたまま市丸を見つめた。


「何や、朽木家は初詣行かんの?」

「いえ・・・皆揃って行きますが・・・」

「あ〜、面倒臭い行事なんやね。でも今年はボクが兄様なんやから、ボクのやり方に付き合うてよ」


そう言ってすっくと立ち上がる市丸を、ルキアは不思議そうな面持ちで見上げていた。


「大貴族の初詣はきっと、つまらん決まり事だらけで疲れるんやろなァ

 ボクの初詣は楽しいで」


ニッ と笑ってみせる市丸の笑顔が、とても子供のように見えたからであろうか。

ルキアは市丸に言われるまま支度をし、初詣に向かっていた。







・ ・ ・







「やっぱりルキアちゃんは女の子やねェ 紅い着物がよう似合うてはる」

市丸の素直な褒め言葉に言葉を返せないルキア。




(この男は・・・こんなに穏やかな人であっただろうか)


神社へと向かう道を二人並んで歩きながらルキアは戸惑っていた。




いつも隊舎などで会う時の、蛇のように滑り込む視線や畏怖を感じる存在を心底嫌っていた。

しかし今日はどうであろう。

畏怖の念どころか、何故か温もりを感じる。

隣でわざとカラカラ下駄の音を立てながら歩く市丸を横目で見やる。


『今日一日、キミの兄様や』


わけの分からぬ事を言い出すと呆れていたものの、なかなかこの男は“兄らしい”のである。



冷たく突き放されたように扱われてきたルキアにとって、今の市丸との行いは無意識にも憧れていた光景であった。



「お手て繋ごか?」

「なっ、馬鹿にするなッ///」


差し出された手をパシリと叩くルキアだが、胸の奥でトクリと小さく音がなった。







・ ・ ・







「着いたで」


大きいが、毎年朽木家で訪れる神社とは違い、庶民的な雰囲気の漂う神社であった。

社までの道沿いに幾つもの出店が顔を出している。



「まずはお参りせなな」

そう言ったものの鳥居の前で立ち止まる市丸。


「・・・・・」

ルキアはその様子を黙ってみていた。


「まずは一礼やな」

軽く、適当ではあるがお辞儀をする市丸に続き、ルキアも丁寧に礼をした。


(・・・意外だ。礼をわきまえている)


そんなルキアの心中を読み取ったのか、市丸はルキアの方を向くと高慢な笑みを浮かべた。






百八段あるという長い階段を上る二人。


「今まだ六十五段やァ」

「六十五?私が数えたのだと六十七段・・・―」


フッ と後ろを振り返ると同時に体勢を崩したルキア。


「あ」

小さく声を上げたが、その直後 左手を強く引っ張られるのが分かった。


「危ないなァ ルキアちゃん・・・ひやっとしたわ」


目の前には市丸の広い胸。

しっか とルキアを抱きしめる市丸の腕は、筋肉質ではあったが細かった。


「あ、ありがとうございます」


「気ィつけよ」


そっと腕を解く市丸。


だが握られた左手だけは、市丸の右手と繋がったままであった。





「・・・・・」


握られた手は温かく 手を引く市丸は力強くも優しかった。












・ ・ ・










参拝を終えた二人は出店を見て回っていた。

ルキアにとっては懐かしい物で、朽木家の養子になってからはこの賑やかな雰囲気を味わう事は少なかった。




「金魚すくいは恋次が得意なのだ」

冷たい水の中を泳ぐ赤い金魚を眺めながらルキアは笑みを零した。



「ボクは苦手やなァ」

「市丸隊長が・・・金魚すくい?」

「そらボクかてカワイイ子供時代があったんよ」


言われてみれば当たり前だなと、可笑しく思ったルキアはフフッと声をあげて笑った。




「笑ろた やっと笑ろてくれはった」


市丸は満足そうに言うと、後ろに回していた手をルキアの目の前に差し出した。



「りんご飴?」



赤くまんまるなそれは、艶やかな光沢を放ちとても甘そうだった。



「あげる 舐め」



そっと市丸の手から受け取り、少し顔を赤らめて礼を言った。

「ありがとう」







傍から見ても、その様子はまさに兄と妹であった。





続